税理士法人を取り巻く集客環境が大きく変化しています。税理士登録者数は8万人を超え、一方で顧問先となる中小企業は減少の一途。競争激化の中、従来の「紹介営業頼み」や「ホームページを作っただけ」では、新規顧問先の安定的な獲得が難しくなっています。
そんな中、注目されているのが「LINEマーケティング」です。「LINEってBtoCのツールでは?」と思われるかもしれません。しかし実は、税理士法人をはじめとしたBtoB事業者こそ、LINEの力を最大限に活用できる時代が到来しています。
本記事では、税理士業界が直面する集客課題を整理した上で、なぜ今LINEマーケティングが必要なのか、そしてBtoB×LINEの基本概念と従来の集客方法との違いを徹底解説します。
税理士業界が直面する3つの深刻な集客課題
税理士業界を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。「税理士資格さえあれば安定して仕事がある」という時代は、もはや過去のものとなりました。現在、多くの税理士法人が直面している集客課題は、単なる一時的な景気変動ではなく、業界構造そのものの変化によって引き起こされている構造的な問題です。
ここでは、税理士法人が今まさに直面している3つの深刻な集客課題について、データを交えながら詳しく見ていきましょう。
税理士数の増加と顧問先の減少による競争激化
税理士業界で最も深刻な問題の一つが、「供給過多」と「需要減少」が同時進行している現実です。
税理士登録者数の増加が止まらない
日本税理士会連合会のデータによると、2024年度末時点での税理士登録者数は81,696人に達しています。2004年には約69,000人だったことを考えると、わずか20年間で約12,000人以上増加し、増加率は約18%にのぼります。税理士試験の受験者数は減少傾向にあるものの、大手監査法人出身者や国税OBの登録などにより、登録者総数は依然として増加し続けているのです。
さらに注目すべきは、税理士法人の数も増加していることです。主たる事務所だけで見ても、全国で4,000を超える税理士法人が存在し、個人事務所を含めると競争はさらに激化しています。
一方で、顧問先となる中小企業は減少の一途
その一方で、税理士の主要な顧客である中小企業の数は減少傾向が続いています。中小企業庁の統計によれば、1999年に485万社あった中小企業は、2016年には359万社まで減少。17年間で約126万社、率にして約26%も減少しています。年間平均で約7万社が市場から姿を消している計算です。
この減少の背景には、経営者の高齢化と後継者不在による廃業、経営環境の悪化による倒産、そして大手企業への吸収合併などがあります。2025年版中小企業白書でも、事業承継問題が依然として深刻な課題として取り上げられており、今後10年間で約40万社が事業承継の課題に直面すると予測されています。
つまり、パイは縮小しているのに競争相手は増え続けている
この構図を単純化すると、「81,696人の税理士が、減少し続ける359万社(実際はさらに減少)の中小企業を奪い合っている」という状況です。さらに言えば、すべての中小企業が税理士と顧問契約を結んでいるわけではありません。実際に顧問契約の可能性がある企業は、その中のさらに一部に限られます。
この状況下では、「何もしなくても顧問先が増える」という時代は完全に終わりました。優良な顧問先を獲得するための競争は年々激化しており、明確な差別化戦略と積極的なマーケティング活動なしには、新規顧客の獲得はおろか、既存顧客の維持すら難しくなっているのが現実です。
「選ばれる税理士法人」になるためには、専門性の明確化、サービスの高付加価値化、そして効果的な情報発信が不可欠な時代となっています。
会計ソフトの進化とDIY化の波
税理士業界を揺るがすもう一つの大きな変化が、テクノロジーの進化による「会計業務のDIY化」です。
クラウド会計ソフトの爆発的な普及
freee、マネーフォワード クラウド、弥生会計オンラインなどのクラウド会計ソフトは、ここ数年で急速に普及しています。MM総研の調査によると、2025年3月末時点での個人事業主のクラウド会計ソフト利用率は38.3%に達し、拡大基調が続いています。
法人においても、クラウド会計ソフトの導入は着実に進んでおり、特にfreeeは法人向けクラウド会計ソフト市場でシェア32.3%を獲得してトップに立っています。マネーフォワード クラウド会計が19.2%、弥生会計オンラインが15.4%と続き、上位3社だけで約67%のシェアを占めています。
「税理士に頼まなくても自分でできる」層の増加
これらのクラウド会計ソフトの最大の特徴は、会計知識がなくても使える設計になっていることです。銀行口座やクレジットカードと自動連携し、AIが勘定科目を自動提案してくれる機能により、記帳作業は大幅に簡素化されました。
実際、スタートアップ企業や若手経営者の中には「創業当初は自分でfreeeを使って会計処理をする」というケースが増えています。YouTubeやブログには会計ソフトの使い方を解説するコンテンツが溢れ、「税理士不要論」を唱える声すら聞こえてくるようになりました。
単純な記帳代行業務では付加価値が認められにくい時代へ
かつて税理士事務所の収益の柱だった「記帳代行」業務は、クラウド会計ソフトの登場により、その価値が大きく低下しています。月額1万円〜3万円の記帳代行サービスは、「それなら自分でやった方が安い」と考える経営者が増えているのです。
実際、「記帳代行だけで月3万円」という料金設定は、経営者にとって「ただデータを入力してもらうだけで年間36万円」という金額に感じられます。クラウド会計ソフトの月額利用料が数千円であることを考えると、その差は歴然です。
コンサルティング型サービスへのシフトが急務
この変化に対応できていない税理士事務所は、確実に淘汰されつつあります。一方で、成功している税理士法人は、すでにビジネスモデルの転換を図っています。
記帳代行という「作業」から、経営コンサルティングという「知的サービス」へ。具体的には以下のような高付加価値サービスへのシフトです:
- 経営数値の分析と改善提案
- 資金繰りシミュレーションと財務戦略立案
- 事業計画の策定支援と進捗管理
- 補助金・助成金の提案と申請サポート
- 事業承継や相続税対策のコンサルティング
- M&Aアドバイザリー
しかし、このような高付加価値サービスを提供するには、相応のスキルと実績が必要です。さらに重要なのは、「私たちはこんな価値を提供できます」ということを、見込み客に効果的に伝える仕組みが必要だということです。
会計ソフトの進化は止まりません。税理士法人が生き残るためには、テクノロジーでは代替できない人間ならではの価値を提供し、それを明確に発信していく必要があるのです。
従来の「紹介営業」だけでは限界が来ている
税理士業界では長年、「紹介営業」が顧客獲得の主流でした。しかし、この紹介営業だけに頼る経営モデルは、今、大きな限界を迎えています。
紹介営業への依存度の高さ
全国の税理士を対象とした調査では、新規顧客開拓の約71.9%が顧問先からの紹介によるものという結果が出ています。つまり、10件の新規顧問先のうち、7件は既存顧客や知人からの紹介で獲得しているということです。
一見すると「紹介で7割も獲得できているなら問題ない」と思えるかもしれません。しかし、この高い依存度こそが、現代の税理士法人が抱える構造的な脆弱性なのです。
既存顧問先の高齢化と廃業の波
紹介営業が機能する前提は、「紹介してくれる既存顧問先が安定して存在し続けること」です。しかし現実には、中小企業経営者の高齢化が急速に進んでいます。
帝国データバンクの調査によると、中小企業経営者の平均年齢は年々上昇し、60歳以上の経営者が全体の過半数を占めるようになっています。後継者不在率も依然として高く、多くの企業が事業承継の課題を抱えています。
その結果、長年お付き合いのあった顧問先が廃業するケースが増えています。廃業すれば当然、その顧問先からの紹介は途絶えます。さらに深刻なのは、一つの顧問先を失うことで、その先に広がっていたはずの「紹介ネットワーク」ごと失うということです。
紹介営業の3つの構造的問題
紹介営業には、以下の3つの構造的な問題があります。
①コントロール不可能性 紹介はいつ来るかわかりません。今月は5件紹介があっても、来月はゼロかもしれない。この不安定さでは、計画的な事業成長は困難です。採用計画も立てにくく、組織拡大のタイミングを逃すこともあります。
②市場の一部にしかリーチできない 紹介営業でアプローチできるのは、既存顧問先の人脈の範囲内に限られます。つまり、あなたの事務所のサービスを必要としている潜在顧客の大部分には、そもそも存在を知ってもらうことすらできていないのです。
③紹介元への遠慮が生まれる 紹介で来た顧問先に対しては、「紹介してくれた◯◯さんの顔を立てなければ」という心理が働きます。結果として、適切な料金設定ができなかったり、本来お断りすべき案件を引き受けてしまったりすることがあります。
能動的なマーケティング活動への転換が必要
これらの問題を解決するには、紹介営業「だけ」に頼るのではなく、自ら能動的に見込み客にアプローチできる仕組みを構築する必要があります。
具体的には以下のような施策です:
- SEO対策を施したWebサイトによる検索流入の獲得
- Web広告による狙ったターゲット層へのアプローチ
- セミナーやウェビナーを通じた見込み客との接点創出
- SNSやYouTubeでの情報発信による認知拡大
- そして、LINEマーケティングによる見込み客との継続的な関係構築
重要なのは、紹介営業を否定することではありません。紹介は今後も重要な顧客獲得チャネルであり続けるでしょう。しかし、紹介「だけ」では事業の持続可能性が担保できないのが現実です。
紹介営業と能動的なマーケティング活動を組み合わせることで、安定した新規顧客獲得の仕組みを作り上げる。それが、これからの時代を生き抜く税理士法人に求められる姿勢なのです。これら3つの課題は、いずれも税理士業界の構造変化によって引き起こされている深刻な問題です。しかし見方を変えれば、これらの課題に真正面から向き合い、適切な対策を打つ税理士法人にとっては、大きな成長のチャンスでもあります。
